『恋しきものはさざえのふた』
- 橋元雄二
- 3 日前
- 読了時間: 1分

与板町の花井というところに、与三治という仏像彫りがいて、良寛にいくらかの貸し金があった。与三治は貸金は少しも惜しいとは思わなかったが,その貸し金を因縁に、どうにかして良寛の書を得たいものだと考えていた。しかし、なかなかその機会がなかった。そんな折寺泊付近の海岸の一本道で、うまい具合に良寛に出逢った。与三治は今こそと思い、良寛に貸し金の催促をした。しかし良寛は例によってお金がないから、「待ってくれ」と謝った。与三治は、ここぞとばかりに、「それでは何でもいいから字を書いてくれと、和尚の前に立ちふさがった。良寛は仕方なく、与三治の携帯用の矢立から筆と硯を借りこうぞうの木の粕で作った古びた紙に、一首をしたため貸し金を帳消しにしてもらった。書いた一首の内容は「この頃は恋しきものは浜辺なるサザエの殻の蓋にぞありける」と書いたこのサザエの蓋は、恐らく丸いもの、すなわちお金がほしいの意であろうというのは、地元で言い伝えられている。
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