良寛が五十一歳の時の五月に禅の弟子であった三輪佐一が病没した。越えて翌年の八月に,良寛に絵を手ほどきした僧の有願(うがん)も病没してしまった。我が五合庵には、彼らが来て泊まった時に託した枕が一つ、余分にあるだけになってしまった。世のなかは広いはずなのに、心おきなく語り合える者がほとんどいなくなって、やりきれないさびしさである。
ものにこだわらない良寛であるが、さすがに知友の死亡はこたえたらしい。すでに有願がこの世にいないのに、これを忘れて、つい有願の居住していた田面庵(たのもあん)に訪ねたこともあったそうである。良寛が七十歳を超えて左一が没してニ十年径っても「左一を思い出し夢見たことがあったので夢の話を良寛が思い出しながら書いている。「君と別れてニ十年もたっているのに、ふと夢の中で君と会った。場所はそよ風が吹く春のおぼろ月夜、野橋の東側である。互いに手を取り、楽しく語り合いながら、与板宿の八幡宮まで歩いて行った。」若かりし頃の弟子の左一の夢をみた。良寛もこの頃は七十歳を越え病床に伏しており自分の死期が近いことを悟り、若い頃の友人達のことを懐かしんで思い出していたのかも知れない。良寛はそれから数年後74歳で亡くなられた。
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