「恋しきものはさざえのふた」
- 橋元雄二
- 2020年2月25日
- 読了時間: 1分

与板町の花井というところに、与三冶という仏像彫りがいて、良寛にいくらかの貸し金があった。与三冶は、金は少しも惜しいとは思わなかったが、その貸し金を口実に、どうにかして良寛の書を得たいものだと考えていた。しかし、なかなかその機会がなかった。そんな折、寺泊村付近の海岸の一本道で
うまい具合に良寛に出逢った.与三冶は、今こそと思い、良寛に貸し金の催促をした。しかし、良寛は例によってお金が無いから、「まってくれ」と謝った。与三治は、ここぞとばかりに、「それではなんでもいいから字を書いてくれ」と、持ち合わせの塵紙を両手で広げ、良寛の前に立ちふさがった。良寛葉仕方なく与三冶の矢立{携帯用硯箱からちびた筆を取り出し、一首をしたため、長い間の借金を帳消しにしてもらった。「このごろは恋しきものは浜べなるさざえの殻の蓋にぞありける」このさざえの蓋は、恐らく丸いもの,即ちお金が欲しいの意であろうというのは地元で言い伝えられている。
貧を重んじて物欲を一切もたずに生活していた良寛らしい逸話である。
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