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  • 執筆者の写真橋元雄二

『さらけだして堪える』

更新日:2022年11月21日



良寛は当時の人としては長生きの七十四歳まで生きたが、手紙や詩を見ると、決して丈夫な人ではなかった。しょっちゅう風邪をひき、腹をこわし、熱を出し,等等の症状を記した詩や歌をいくつも作っている。医者や薬もおいそれと手に入らぬ草庵の一人暮らしで、その心細さはいかばかりであったろうと、気の毒になるのである。にも拘わらず、良寛は素志を貫いて、無一文のその草庵生活を辞めようとしなかった。寒さに対して充分な防御もできず、病めばただ寝ているしかない暮らしに、堪え通した。わたしは良寛の頑固さを思うたびに、この余りに丈夫な体質でない人の芯の強さに驚愕せざるをえない。わたしだったらとうてい我慢できなかっただろう。だが、良寛はそういう心細さに決して雄雄しく耐え忍んだのではなかった。辛い、苦しい、心細い,と歎き歎き、自分の弱さをさらけだしようやく凌いだのである。私は良寛のそいうところが何とも言えずに好きだ。病ばかりでない。厳冬の草庵暮らしの辛さ、苦しさもまた、少しも隠さず訴えている。この自分の弱さを丸出しのところ、この正直さが良寛の多くの人の心とらえる理由の一つである。中野孝次「風の良寛」より引用

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