『好意の埋め合わせ』
- 橋元雄二
- 2023年4月20日
- 読了時間: 1分
更新日:2023年8月25日

岩室村(現岩室温泉当たり)の横曽根に、堀越与兵衛という豪農がいた。彼は良寛を非常に尊敬していたので、良寛が托鉢に訪れると、家の中へ招き入れ、いろいろと接待した。ある年の初冬、与兵衛は友人二人を誘って,酒だるを持つて五合庵を訪ねた。良寛は酒だるを見ると、顔をしかめて、「せつかくだが、酒は今年から嫌いになった」といった。与兵衛は、がっかりした。自分たちだけで飲むわけにもいかないし、持つて帰るには重たくてかなわない。「せっかくの新酒なので、遠くから持つて来たのですが仕方ないからほかすことにします。といつて、酒を捨てようとした。すると良寛は、あわてて止めた。そして、実は先日も、わざわざ酒を持つてくれた人があつた。ところがそれはこうじの造りそこないの酒で、酸っぱくなった酒になっていた。今度のもそれを連想し良寛は「酒が嫌いになった。とつい心にもないことを言ってしまつた。遠方からわざわざ持つて来てくれたのにすまないことだと謝った。この夜は良寛も大変機嫌よく酒に酔った。そして普段はめったに人に字を書かない良寛は、この日は自分の方から、「字を書いてあげよう」と言って、いくらでも書いたという。
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