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執筆者の写真橋元雄二

『老いの身に杖を忘れて』

更新日:2023年3月17日

この話は、良寛がずっと年を取ってからの話である。ある日、良寛は、三島郡竹の森の

星彦左衛門の家を訪ねた。夕食の後、良寛と彦右衛門は一緒に隣の家へ風呂をもらいに

行った。そして風呂から帰ってくると、良寛は上り口にあった杖を取って、すぐに帰っ

て行こうとした。それを見た彦右衛門の子供が、「良寛様、それはうちの杖だ」と呼び

止めると、良寛は「いやわしの杖だよ」と言ってそのまま出て行った。しかし、しばら

くすると良寛は、「杖を取り違えた」と、戻って来て、またすぐに帰ろうとした。家の

者は、良寛様、もう夜も遅いのでお泊り下さい」としきりに止め、「今夜こそは、なに

か書いて下さい」と頼んだ。しかし、あいにく紙の用意がなかったので、彦右衛門は、

庄屋まで紙を借りに行った。彦右衛門が出かけて行った後、良寛があたりを見回すと、

囲炉裏の上に古ぼけた香典帳があった。良寛はそれを取り,「老いが身のあわれを誰に

語らまし 杖を忘れて帰る夕ぐれ」と一句をしたため、早々に帰って行ってしまった。


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