島崎の木村家に長造という半農の床屋が出入りしていた。長造は、良寛の書いた天神様(「学問の神様」として知られる菅原道真公のこと)の掛け軸が欲しくて、良寛に会うたびに天神様の書を書いてくれと何度も頼んだ。ある日、長造は良寛の頭を剃っていたが、わざと半分剃り残して、「天神様のお軸を書いてくれ」と頼んだ。良寛も半分剃り残しのままでは外に出ることも出来ないので、仕方なく「天満大自天神」と書いて長造に渡した。長造は嬉しくて、表装して掛けていた。するとその書を見たある者が「この神号には(在)の字が抜けていると教えた。長造は、さっそく良寛に話し、書き直してくれるように頼んだが、良寛は『お前にも分かったか、ハッハッと笑い、「お前が意地悪するから、わざとその様に書いたのだ。わしは隣の婆には、一字おまけして書いてやった。同じ天神様でも、お前のと婆のとでは格が違うでな」と言って書き直してやらなかった。隣のお婆さんには、「天満大自在々天神」と書かれていたそうである。
良寛逸話選の中より ※ 記事・写真の無断引用はできません。Copyright (C)
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